宇都宮地方裁判所 昭和32年(行)6号 判決 1975年2月27日
栃木県栃木市城内一七一〇番地
原告
有限会社栃木合同精麦所
右代表者代表取締役
増山新一郎
右訴訟代理人弁護士
三輪一雄
栃木県栃木市本町五六六番地ノ二
被告
栃木税務署長
磯政英
右指定代理人
玉田勝也
同
田井幸男
同
渡辺芳弘
同
黒柳熊夫
同
丸山豊一
同
琴寄浩
同
大谷仁
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
当事者双方の求める裁判および主張は別紙要約書記載のとおりである。
理由
一、請求原因第一項の事実については当事者間に争いがない。また、被告の主張する、原告の本件事業年度に関する課税根拠の計算のうち期末棚卸原料高を除いては、当事者間に争いがない。
二、そこで、以下においては、争点である原告の本件事業年度における期末棚卸原料高について判断することとする。
しかして、いずれも成立に争いがない甲第三号証、乙第四号証の一ないし三、乙第一〇号証の三、乙第一一ないし第一五号証、乙第一七、第一八号証、証人白石利行、同栃木義明の各証言、及び弁論の全趣旨を総合すれば、
1. 原告の昭和二八年事業年度の期末棚卸原料高は、原料受払帳によれば二三五八万六〇二〇円であること
2 (一) 原料受払帳の目的は、原料の種類ごとに、取引の都度、受入・払出を記載し、もって原料の現在高を正確に把握することにあるところ、原告の場合も、同様の目的で前年度たる昭和二七年七月ころから記帳を始めたこと、そして、原告の場合は、取扱原料が大麦、裸麦、外麦の三種類のみであり、記帳整理が比較的容易であるうえ、記帳責任者として栃木義明及び佐藤邦夫が従事していたこと
(二) 本件原料受払帳は、いわゆる裏帳簿的性格を有すること
(三) 本件原料受払帳の記載は、原告の他の帳簿類たる総勘定元帳、<秘>売上帳、荷受帳、仕入日記帳、精品出入帳、副産物帳などと矛盾がなく、終始一貫していること
(四) 原告は、本件事業年度末に近い昭和二九年四月九日、在庫調査を行ない、原料受払帳の在庫原料高を実際の在庫高に合わせて誤謬訂正(大部分は計算誤謬)を行なっていること
(五) 本件事業年度における消費原料とこれによって生産された生産物の関係についても、原麦や精品価格の偏差、工場設備や技術などによる搗精歩留の差異などを具体的に考慮検討すれば、その間に何らの不均衡を生じていない(原告主帳の計算基準と計算方法によれば、原告申告の消費原料と生産物についても著しい不均衡を生ずる)こと
(六) 被告が原告の簿外原料として認めた原麦五二四三俵は、麦の統制撤廃に備え、撤廃前に違法に買入れたものであるため、これを秘匿する必要から記帳しなかったもので特殊な事情に基づくものであり、簿外における原料の受入・払出の日常化を示すものではないこと、しかも、右原麦五二四三俵は前年度たる昭和二七年七月前に購入されたものであって、原告の事業規模、精麦能力などから昭和二七年度中には消費されているとみられることからして、右簿外原麦は、本件事業年度の原料高には何らの影響を与えていない(昭和二七年度における右簿外原麦の損金認容は、消費の事実に基づくものであり、代表者増山新一郎個人に対する債務を認容したものではない)こと
(七) 原告の代表者及び記帳責任者は、関東信越国税局による査察ならびに捜査機関の取調べに対し、本件原料受払帳が原料の受入・払出の実際を記帳したものであることを認めている(簿外原料の主張も、前記五二四三俵についてのみである。)うえに、右記帳責任者が査察官に提出した原料に関する調査結果たる答申書(乙第四号証の一ないし三)も、本件原料受払帳を基礎資料として作成されていること。
が認められる。
右認定を左右するに足りる証拠はない(甲第四、第五号証の各鑑定結果は、特定時期における政府の売買価格や市場価格に基づいて算出されたもので、価格や歩留の流動性、個別性を無視しており措信しがたい。)。
なお、原告は、未引取原料六八俵についての代金支払の事実を否認するが、前記乙第四号証の三、乙第一〇号証の三によって認められる原料受払帳および前記答申書上に右六八俵の未引取原料が在庫高として記載されている事実並びに弁論の全趣旨より、右六八俵についての代金支払は、本件事業年度中になされているものと推認される。
以上の認定事実からすれば、本件原料受払帳の記載は正確なものであり、したがって、原告の本件事業年度における期末棚卸原料高は、被告主張どおりの二三五八万六〇二〇円であることが認められる。
よって、右認定に反する原告の主張は採用しがたい。
三、とすれば、本件事業年度における原告の所得(当期利益金)は、被告のなした再更正処分どおり二二九四万八七〇〇円となるから、右金額及び留保所得金額につき法人税法所定の税率による法人税額、脱漏法人税額を基礎としてなされる同法所定の重加算税額が、いずれも本件再更正処分のとおりであることは計数上明らかであり、本件再更正処分にはこれを取消すべき違法の点は存しない。
よって、原告の本訴請求は理由がないから、これを失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 渡辺均 裁判官 新海順次 裁判官 市瀬健人)
別紙
要約書
原告
請求の趣旨
被告が、昭和三一年五月三一日付でなした、原告の昭和二八年五月一日より昭和二九年四月三〇日までの事業年度分の法人税についてした再更正決定のうち、課税所得金額一九一万八五〇〇円を超える部分および重加算税の賦課決定を取消す。
訴訟費用は、被告の負担とする。
請求の原因
一、原告は精麦およびこれに付帯する業務を営む有限会社であるところ、昭和二九年六月三〇日被告に対し、原告の昭和二八年五月一日から昭和二九年四月三〇日までの事業年度の法人税につき所得金額一五六万四七〇〇円税額七一万六二五〇円と確定申告をしたところ、被告は、昭和二九年九月三〇日、所得金額一九一万八五〇〇円税額八八万五五九〇円と更正し、さらに、昭和三一年五月三一日に、所得金額二二九四万八七〇〇円、既納法人税額八八万五五九〇円を差引いた法人税額を九四〇万二九九〇円、重加算税四六八万二〇〇〇円とする再更正決定をした。原告は、再更正決定を不服として、昭和三一年七月四日、関東信越国税局長に対し、審査の請求をしたところ、昭和四四年に至り請求棄却の裁決をした。
二、しかしながら、原告の本件事業年度の所得金額は一九一万八五〇〇円であるから、前記再更正決定のうち右金額をこえる部分および重加算税の賦課決定は違法である。よって原告は被告に対し右違法処分の取消を求める。
1. 認める。ただし別表の貸借対照表修正欄のうち順号5の原料高順号43の当期利益金高については争う。
2. 認める。
二、被告主張の理由はいずれも失当である。
1. 否認する。
(一) 本件期末棚卸資産中原料二三五八万六〇二〇円は実際に期末に棚卸によって確認されたものではない。したがって本件原料受払帳など棚卸に関係ある帳簿書類も正確性を欠き信用することはできない。すなわち、被告も自認するように、原告は「棚卸資産の事後監査による検証手続」をしていないから、いくら机上調査に手ぬかりがなくても、現品調査の裏付がない机上調査では、実地棚卸をしたことと同一に論ずることはできないのである。
(二) 原料受払帳の一般的目的なり役割は被告主張のとおりである。しかし、本件原告の場合は、まさにその例外なのである。被告はそのこともよく知っていた。すなわち、後記2.(一)のとおり、被告は簿外原料の存在及びその簿外消費を認めた事実があるのである。
(三) 昭和二九年四月九日に在庫調査を行い減額訂正したという被告の主張自体期末決算日の実地棚卸による訂正でないし、決算日の二一日前に在庫調査をしても意味がなく、右調査は行なわれた事実はなく虚偽のものである。したがって、右訂正は実際の在庫調査に基づくものではなく帳簿上の机上修正にすぎない。
次に、現実の棚卸について被告主張のような会計慣行のあることは認めるが、その会計慣行によると、調査の正確を期するため、数日にわたって操業をやめ、ひとつの倉庫を空にして原料を一方から他方の倉庫に移しかえる(それも種類別に行う)ことが必要であり、大変な手間がかかるため原告は右会計慣行を実施していなかった。また帳簿上の訂正がなされていることは、実際に在庫調査が行われ、原料受払帳が実際の残高に合致された証明であるとする被告の主張は単に帳簿のひとつの欄の数字が訂正されている事実からの憶測にすぎないし、棚卸をした事実がない以上、原告が棚卸計算法を併用した事実もまたない。
しかして、訂正した量は調査の結果だとすると、トラック一二台分に相当するから一朝一夕でこのような大量の記帳と実際の在庫量との不符合が生じる訳がない。
相当長期にわたって、記帳と実際の量とのズレが度重なって、その集積したものであり、長期間にわたって原料受払帳に不正確な記載がなされたことの証左となる。そしてこの事実からも相当大量の架空在庫が原料受払帳に記載されていることがうかがわれる。
2. 否認する。被告主張の前記原料のうちには架空在庫が含まれている。
(一)(1) 被告認定の前記原料のうちには、昭和二九年四月三〇日前に消費されていた原麦五二四三俵(八五九万八五二〇円)の架空在庫が計上されている。このことは被告の原告に対する、前期(昭和二七事業年度)の法人税に関する再更正処分を行なった際に「期首において原麦一六八九俵(二七六万九九六〇円)の簿外在庫があったが、その後簿外で払出(消費)されたこと」および「期中において簿外原料三五五四俵(五八二万八五六〇円)の受入、期中における簿外払出(消費)のあったこと」をいずれも容認していた事実を指している。そして、この事実は、原告が長期にわたってかねがね原料受払帳等の正規帳簿に記載されていない多額のいわゆる簿外原料を手持し、かつ、その製品化のため、この種原料の簿外受入・払出が日常化されていたことを示すものである。被告主張の簿外消費(払出)が簿外原料に限りかつ前年度中に限り行なわれたという事実はない。したがって、正規の原料受払帳に記載された数額のみを集計した結果である本件期末在庫が、実地に棚卸して決められるべき残高と同等視することは素地に矛盾がある。また、被告は、係争の簿外原料の簿外取得を認めるわけであるが、期末原料二三五八万六〇二〇円が実際の棚卸在庫量ならば、期首原料についても右簿外原料を加算しなければ正しい当期の所得は算定されないし、前記期末原料が原料受払帳上のものであるならば、原料受払帳が事実どおり記帳されていなかったことになる。
さらに、被告は、係争の簿外原料は、本件事業年度とは関係がない旨主張するが、昭和二七年七月一日から継続的に記入を開始した原料受払帳の記載の正確性が問題とされ、簿外原料の存在と簿外の消費事実が明白になされている以上、右簿外原料は本件期末残高の真否と不可分の関係にある。
なお、被告主張のうち、係争の簿外原麦が増山個人が仕入れて、これを会社に提供したこと、この代金相当額の損金算入が認められたことは認めるが、これによって期末在庫の調整確定があった事実は否認する。
損金認容は、前期の消費があったということによるものではなく、被告の自認するように、増山個人が仕入れて会社に提供したという原料の仕入れすなわち増山個人に対する債務の存在が否定できないため、損金に算入されたに過ぎない。
在庫とは全く無関係である簿外原料の仕入れを認容したから、それ以上在庫についてはあれこれ文句をいうまいという措置をしたに過ぎない。
したがって、右認容損金は借入金であり、この増山個人からの借入金は二七年度のみならず、二八、二九の両年度にそのまま継続計上されている事実によっても、この金額が期末在庫の調整措置でないことは明白である。
以上のとおりであるが、そもそも被告の「年度内簿外消費説」は簿外原料の存在を認めただけでは具合いが悪いので考え出されたことである。+(プラス)-(マイナス)イコール零といった糊塗手段に過ぎない。
(2) 否認する。前述のとおり、簿外原料について仕入れがぬけているので、増山個人に対する債務を認めただけで在庫の調整(受払帳の正常化)をした事実は全くない。
なお、税務調査では、一般的に経営分析上の売上差益率などによる所得推計方法の採用されていることを認める。
しかし、本件では、その方法をとらなかったから実額調査を要するわけであるが、実額で所得を計算するに当って肝心の実施調査をしなかった違法がある。
(二) 昭和二九年四月三〇日付その他の未引取原料六八俵(一一万五六〇〇円)は架空在庫である。すなわち、右未引取内麦六八俵については、仕入代金の支出の事実が認められないから、原料期末棚卸高に計上することは違法である。
3. 課税所得の算出方法は認めるが、その余の事実は否認する。
本件では年間生産高(売上)一億一三二六万八八七二円と原料消費高(売上原価)一〇億〇四一一万〇六二八円とが、計算上非常にくいちがう。右原料をもとにして原価計算をすると、製品一〇〇円当り原料九一円九一銭という業界では一般的に通り相場となっている製品安の原料高、すなわち製品一〇〇円当り原料一〇一円六〇銭かかるというのと比較しても、余りにもかけ離れすぎた試算の結果になる。
つまり、これでは期末在庫が過大ではないか、消費原料がもっとあってよいのに少なすぎるのではないか(すなわち、売上原価を非常に少なく計算しているのではないか)という疑問が生ずる。
なお、糖すなわち副産物は製品原価に算入すべきではないから、これを算入することによって、生産製品とその所要原料との均衡、不均衡を云々するのは間違いである。
被告
答弁
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
認否
一、認める。
二、否認する。
抗弁
一、課税の根拠
1. 被告は、昭和二九年九月三〇日、原告の本件事業年度の法人税について所得金額を一九一万八五〇〇とする更正処分を行なったところ、その後の関東信越国税局調査査察課の調査によると別表一の「貸借対照表」の修正欄のとおり多額の計上もれが認められたので、同欄のとおり計上を行ない、本件事業年度の所得金額を二二九四万八七〇〇円とする本件再更正処分を行ない、かつ本件再更正処分による増加法人税額に対して重加算税を賦課決定をしたものである。
2. 右課税根拠の計算のうち、原告主張の所得金額と被告主張の所得金額との差異の生ずる点は、本件事業年度における期末棚卸原料高(別表貸借対照表順号5の原料高)についてである。
原料高について、原告は一三八八万二二二〇円を申告したのに対し、被告は九七〇万三八〇〇円の原料の在庫が判明したとして二三五八万六〇二〇円と加算修正したことによるものである。
二、被告が原告の本件事業年度における原料高を二三五八万六〇二〇円としたのは次の理由による。
1. 原料の棚卸高二三五八万六〇二〇円は被告の調査により適正に計算されたものである。
(一) 本件被告の棚卸調査は仕入日記帳、荷受帳、原料受払帳等棚卸に関係のある帳簿書類の調査ならびに原料受払帳の受入及び払出の記録状況、原料消費高と製造高との当否等の調査検討を行ない、前期末残高と期首繰越記帳高及び原告の「棚卸品の明細」表と受払帳との照合検討などをなし、さらに、記帳責任者(栃木義明ほか一名)にも確認のうえ算定したものであり適正である。
(二) 原料受払帳の記帳目的なり役割は、原料の種類毎に、取引の都度、個別的に受入・払出を記録して、原麦の棚卸高を絶えず常に正確に把握し、精麦作業を円滑に進めることと共に一定期間の原材料の受入・払出・残の数量を直接的に計算するためにある。本件原告の場合も例外ではない。ことに原告の取扱原料は、大麦裸麦と外麦の三種類のみであるから、単純に物的管理が可能といえるし、なお食糧管理制度の下で、企業として常時これらの過程の把握が要請されるため、原告はその従業員訴外栃木義明、佐藤邦夫を責任者として原材料などの管理をさせていたものであることなどからみて原料受払帳は真実の棚卸高を記録したものであるから、実地棚卸をして帳簿と実際の在庫高との照合をしなかったということを理由に、帳簿が不正確であるということはできない。
すなわち、原料受払帳があり、その目的・役割・記録状況をみるとき、原告の会計人が実地棚卸をしなかったことのみで、すべて無効とする原告の言動は失当である。
(三) 原告は、本件事業年度の期末に近い昭和二九年四月九日に在庫調査を行ない原料受払帳上、原麦一二四九俵を減額訂正している。
しかして、一般的に、棚卸は決算日にすべきものであるが、現実の棚卸は、決算日の前後一定の期間に実施し、その間の差を調整して棚卸高を確定する合理的な方法が会計慣行として企業会計で行なわれている。したがって、決算日以外の四月九日に在庫調査しても無意味でもないし、また原料受払帳の記載が不正確ということにもならない。
なお、訂正した一二四九俵の大部分は計算や記帳の誤謬修正であり、原告がいう「受払が事実どおり行なわれていなかった事実を証明するもの」とは全く反対に在庫調査が行なわれ、原料受払帳が実際の残高に合致された証明であるとともに継続記録法と棚卸計算法を併用して期末在庫の確実性を高めたものといえる。
そこで、被告は原料受払帳を基として、逐一加算減算の計算を行なって、本件係争の原料棚卸高を算定したものである。
2. 被告主張の前記原料は在庫高であり、架空のものではない。
(一)(1) 原告には原料受払帳の簿外で消費された原麦があるが、それは簿外で取得されたから原料受払帳の残高が、右消費された原麦の金額だけ架空になるということはありえない。まして、右記帳外原麦の取得および消費は、本件係争事業年度の前期以前のことであって、右簿外原麦は消費されていて、本件係争年度に繰り越されているわけではない。
しかして、被告が、簿外消費を認めたとはいうものの、当該簿外原麦の真偽は不明であるところ、別件法人税法違反被告事件第二次控訴審判決の判示にもあるとおり、増山個人が仕入れて昭和二七事業年度中に会社に消費せしめた旨の申立を「措信し難い」が「後日の紛議を避けるため」に当該事業年度の当期利益金から除算し、そして、昭和二八年四月三〇日の原料繰越在庫一三三三万四九一六円を確定したものであり、本件係争事業年度の期首在庫は、それを引き継いできたものであるから、本件係争事業年度の原料受払帳の記入が、前期以前に存在した右簿外原麦によって影響をうけ、その結果、原料受払帳の残高に架空在庫が計上されていることになるということはあり得ない。まして、前期に消費され、損金に認容されているものを期首原料に加算しなければ正しい当期の所得は算定されないということは、事実上も文理上もあり得ないし、原告主張の「期末原料二三五八万六〇二〇円が実際の棚卸在庫量ならば」以下については、その具体的な数字もなく、原告の主張は失当といわざるを得ない。
さらに、簿外原料があったので一般的に払出の記帳がルーズになるかどうか、又記帳された原料と簿外原料が段別され別個に保管され、払出も区別されねばならないかどうかということは、当該簿外原料を受払帳に記入しなかったことに係わり、原告が種々推測・危懼強調しているが、それは前期(昭和二七事業年度)の法人税に関する再更正(昭和三一年五月三一日付)処分の際に考慮されている。
したがって現在において原告のかかる主張は全く意外である。
(2) 以上のとおり、被告が簿外原料を損金に認めたのは、再更正の際、原告の再三の要請と、被告としても極力受払帳の正常化につとめるためであった。かかる場合、簿外消費原料に対し売上差益率に見合う所得を加算する方法もあるが、本件原告の調査については、今後帳簿書類等に基づく所得計算が行えるように継続的記録を可能ならしめる総合的配慮のもとに、帳簿書類や資料に基づく実額計算を採用した。
このような配慮を含む被告の処置を非難されるいわれはないし、まして係争年度以前の問題であり確定した行政処分となっているものである。
(二) 昭和二九年四月三〇日付その他の未引取原料六八俵一一万五六〇〇円は、すべて近隣農家からの買入れ分であるが、架空在庫ではない。しかして、近隣農家からの買入れ分は、一回の買入れ量が小口であるため、数軒の農家からの買入れ分を適宜に合計して記帳し内訳明記がないので、特定の仕入代金の支出の事実を帳簿上において個別に容易に確認することは困難であるが、原告の仕入日記帳、仕入補助簿、現金出納帳を仔細に検討すれば仕入代金の支出の事実を確認できる(また翌期以降には支払の事実はない。)ことであり、明記がたいことによる非難の転嫁は問題のすりかえである。さらに、右未引取内麦一一万五六〇〇円を原料期末棚卸高とすべきことは、原告会社の事務員である栃木義明ほか一名がその調査により作成した棚卸商品調査表および原告の原料受払帳より明らかである。
3. 課税所得を算出するには、売上から売上原価を控除すべく、売上原価は期首棚卸高に当期仕入高を加えたものから期末棚卸高を減ずることによって得られるのであるが、本件において、年間生産高(売上)一億一三二六万八八七二円と原料消費高(売上原価)一億〇四一一万〇六二八円との間には何ら不均衡はない。すなわち、原麦の相場は、品質によって相当の差異があるとともに、製品価格も相当大巾な偏差があること、また、各工場の搗精歩留(使用原料に対する製品仕上り割合)が使用原料の種類・品質、工場の設備・技術などによってかなりのくい違いがあるから、一〇〇円あたりの基準原料費を云々しても全くの概算にしかすぎない。さらに、精麦業においては、多量の糖が発生し(三・〇一キログラム原料より二・〇キログラムの押麦と約一・〇キログラムの糖が生ずる。)しかもこの糖は、相当な価格(一キログラム平均一二円)で売却できるものであるから、原料高の製品安ということもできない。しかして、原料受払帳その他の各関係帳簿に記載された個々具体的な数字にもとずいて計算集計すれば、消費原料とこれによって生産された生産物の間には何ら不均衡を生じない。帳簿上の個々の取引価格とは必ずしも合致しない特定時期における政府の売買価格、市場価格などを基準として、年間生産高と原料消費高の関係を調査しても、それは全くの概算にしかすぎず、比較基準にはならないものであり、本件における被告主張の期末原料高について疑問を生じさせるものではない。
別表一
貸借対照表 (昭和29.4.30現在)
<省略>
<省略>